賃貸アパートの一室が、天井までゴミで埋め尽くされている。この事実は、その部屋の住人だけでなく、アパートの所有者である大家さんにとっても、悪夢以外の何物でもありません。それは、単なる迷惑行為というレベルを超え、アパート経営そのものを根底から揺るがす、深刻な事態なのです。大家さんが直面する苦悩は、多岐にわたります。まず、最も恐ろしいのが「火災のリスク」です。天井まで積まれた可燃物の塊は、ひとたび火がつけば、爆発的に燃え上がり、アパート全体を巻き込む大惨事を引き起こしかねません。他の入居者の命をも危険に晒すこのリスクは、大家さんにとって、夜も眠れないほどの恐怖となります。次に、「建物の資産価値の暴落」です。天井まで積まれたゴミの総重量は、数トンにも達し、常に建物の構造に過大な負荷をかけ続けます。床が抜けたり、建物が歪んだりする危険性があります。また、長年の湿気や腐敗によって、床材や壁、柱などが腐食し、建物の耐久性は著しく低下します。さらに、強烈な悪臭や害虫が、他の部屋にまで影響を及ぼし、優良な入居者の退去に繋がってしまえば、アパート経営は成り立ちません。問題が発覚した後も、苦悩は続きます。住人本人に片付けを求めても、経済的な問題や精神的な問題から、応じてもらえないケースがほとんどです。かといって、勝手に部屋に入ってゴミを処分すれば、住居侵入や窃盗で訴えられかねません。法的な手続きを踏んで退去を求めるにしても、長い時間と多額の費用がかかります。そして、たとえ住人が退去したとしても、その後には、部屋を元に戻すための、莫大な原状回復費用が待ち受けているのです。その費用は、住人に請求しても支払われる見込みは薄く、結局、大家さんが負担せざるを得ないことが少なくありません。天井までゴミがある部屋は、大家さんにとって、まさに負の遺産。その対応は、経営者としての判断力と、人間としての忍耐力が問われる、極めて困難な道のりなのです。
天井までゴミがあるアパートと大家の苦悩