高齢者の家がゴミ屋敷化する背景には「もったいない」という世代特有の価値観と、加齢に伴う心理的な変化が深く関わっています。若い世代には理解しがたいその「捨てられない」という行動の裏には、彼らが生きてきた時代背景と心の動きが隠されているのです。多くの高齢者は戦争や戦後の物が乏しい時代を経験しています。その経験から「物を捨てること=悪」という強固な価値観が体に染み付いています。ティッシュペーパー一枚、割り箸一本ですら無駄にすることを極端に嫌い、「いつか何かの役に立つかもしれない」とあらゆる物を溜め込んでしまう傾向があります。これは貧しい時代を生き抜いてきた彼らの知恵であり生活術でもあったのです。しかし物が豊かになった現代社会ではその価値観が裏目に出て、家を物で溢れさせてしまう原因となります。また加齢に伴う認知機能の低下も物を捨てられない大きな要因です。新しい情報を記憶したり物事を論理的に判断したりする能力が衰えてくると、「これを捨てたら二度と手に入らないかもしれない」「どうやって捨てたら良いか分からない」といった不安が先に立ち、結局「とりあえず取っておく」という最も簡単な選択をしてしまいます。さらに心理的な側面として物への愛着と孤独感が複雑に絡み合います。高齢になると新たな人との出会いや社会的な役割が減っていきます。その結果身の回りにある一つ一つの物が過去の思い出と強く結びつき、自分の人生そのものを象徴するようなかけがえのない存在となります。それらを捨てることはまるで自分の過去を否定し消し去るような耐え難い喪失感を伴うのです。物に囲まれることで心の空白や孤独感を埋めようとしているケースも少なくありません。このように高齢者の「捨てられない」という行動はその人の人生の歴史と現在の心の状態を色濃く反映したものです。その背景を理解せず一方的に「捨てなさい」と迫ることは、彼らの尊厳を深く傷つけることになりかねないのです。
物を捨てられない!高齢者の心理とは