先日、あるマンションの五階にあるワンルームのゴミ屋敷清掃を担当しました。依頼主は三十代の男性で、仕事が忙しく、気づけば五年間一度もゴミを捨てられなかったと言います。玄関を開けると、そこには大人の胸の高さまで積み上がったゴミの壁がありました。私たちは防護服を着用し、害虫の大量発生を覚悟して中に入りましたが、驚いたことに、丸一日の作業を通じてゴキブリを一匹も見かけることがありませんでした。この現場がなぜ害虫ゼロだったのか、作業を進める中でその理由が明確になっていきました。まず第一に、ゴミの内容が極めて「無機質」だったことです。部屋を埋め尽くしていたのは、大量のゲーム機、周辺機器、DVD、フィギュアの箱、そして何千本もの空のペットボトルでした。生ゴミや食べ残しはほとんど見当たりません。依頼主は食事のほとんどを職場で済ませ、家では寝る直前に飲み物を飲むだけという生活を送っていたそうです。ゴキブリが必要とする「油」や「水分」が、この部屋にはほとんど供給されていなかったのです。第二に、部屋の乾燥状態が異常でした。五階という高さと、南向きの窓から入り続ける直射日光、そして一度も止めたことがないという換気扇の効果で、ゴミの山はカラカラに乾いていました。段ボールを動かすたびに大量の埃が舞い上がりましたが、その埃こそが、湿気を吸収し尽くして虫が住めない環境を作っていたのです。第三に、依頼主が「虫嫌い」であり、ゴミの上に常に防虫シートや衣類用の防虫剤を大量に配置していたことも功を奏していました。室内には樟脳のような強い匂いが充満しており、これが天然のバリアとなっていたようです。清掃を終えた後の部屋には、害虫の痕跡である糞や卵鞘すら一つも見つかりませんでした。しかし、これで「良かった」とは言えません。ゴキブリこそいませんでしたが、ゴミの下から現れたフローリングは乾燥によってひび割れ、壁紙は大量の埃を吸って変色していました。何よりも、依頼主自身が重度のハウスダストアレルギーを発症しており、激しい咳と目の充血に苦しんでいました。害虫がいないことは、一見すると清掃が楽なように思えますが、実は微細な埃や化学物質、そして乾燥による建材の劣化という、別の深刻な問題を浮き彫りにします。作業終了後、依頼主に「ゴキブリが出なかったからと言って、放っておいていい理由にはなりません。むしろ、虫さえ住めないような乾燥した不自然な空間で過ごしていたことの恐ろしさを知ってください」と伝えました。窓を開け、数年ぶりに外の空気が入った瞬間、依頼主が「こんなに空気が美味しいなんて」と呟いたのが印象的でした。害虫の有無は一つの現象に過ぎず、大切なのは、人間が健全に、そして心地よく呼吸できる空間を取り戻すことなのだと、改めて実感した現場でした。私たちはこれからも、目に見える不潔さだけでなく、目に見えない環境の異常にも細心の注意を払い、居住者が真の意味で健康を取り戻せるよう清掃に取り組んでいきたいと考えています。
ゴミ屋敷清掃レポートマンションの五階で見た害虫ゼロの現場